昨日、早くに帰ってきて、すぐ眠りました。暗くなる前に、眠りました。夜、目が覚めました。連れ合いのぴよさんも、泊まりでいません。いそいそ起きて、ごはんを食べました。僕は、電話嫌いのテレビ嫌いなんですが、なんか寂しくて、テレビを付けました。山田洋次監督の映画「学校4」をやっていました。僕は「幸福の黄色いハンカチ」や寅さんシリーズが、好きです。けれども、どうも「学校」は、好きじゃないんです。金八先生を熱心に見ることができないのに、似ています。でも、ついつい見てしまいました。「学校4」は、よかったです。
僕は...いや、僕も...学校が嫌でした。何となく、居場所がなかった。いや、作れなかった...のかもしれません。小学校時代について言えば、いい思い出は、ほとんどありません。怒られたこと、殴られたこと、仲間外れにされたこと...なんかそんなことばかりです。きっと本当は、いろいろあったんでしょうが、そんなことばかり残っています。それゆえに、今この仕事をしていて、
「私は、小学生時代、いい思い出がないんだよ。勉強できなかったし、運動めっちゃだめだったし、暗かったし...。だから、できないって人の気持ちは、分かるつもりでいるよ」
そんなことを言うことがあります。これは、本当です。でも、胡座をかいちゃあ、いけませんね。「学校4」と同じように、僕も随分、家を出ました。無断ではなかったので、家出ではないです。けれども、いつも家には帰りたくなかった。
中学生2年のとき、夕張から苫小牧を目指して、歩きました。早朝3時に家を出て、朝日を見ながら、行きました。富野に下る峠を歩いていると、
「どこまで行くの? 乗っていくかい?」
という車に会いました。僕は、丁重に断りました。当時中島みゆきが大好きだった僕は、彼女の歌のように、海まで転がってみたかったんです。いつもバスで通る峠には、狐の死骸や、捨てられたエッチな雑誌が、ありました。歩くと、いつもは見えないものが、見えてくる。角田夕張橋のあたりから、国道234号線を行きました。歩くリズムは出来てきたものの、眠たくて仕方ありませんでした。頭は眠っていて、脚だけが歩いていました。朝のうち、何台か車が声を掛けてくれましたが、昼近くになり、そういう車はなくなりました。
国道は、辛かったです。歩道がないんです。しかも、舗装の外は、芝生を植え込む途中で、小さな木の杭で打たれているんです。その上を歩くと、痛いんです。でも、舗装の部分を歩くと、人が歩いてくるなんて思っていない車がびゅんびゅん来る。大変でした。
追分を過ぎて、やばいと思いました。向こうの雲が、あまりにも黒過ぎるんです。重いんです。これは、きっと雷雨になる! どうしようか迷いました。けれども、脚が勝手に歩くので、行きました。ほどなく、予想通りに雨。僕は、傘をさしましたが、車に接触しそうで怖くて、閉じました。仕方なしに、濡れながら、行きました。舗装道路には、タイヤの後が溝になっていて、大量の雨を貯め、それは車が通るたびに僕にかかりました。まさに頭から、つま先まで。しかも、雷。人家が見えない平原では、休むところもありません。僕は、稲光から雷音までの秒数を数えながら、きっとあの電柱に落ちる、僕には落ちないと祈りながら、歩きました。戻るに戻れない、休むに休めない。あるトラックが、追い越しながら、窓を開け、何か叫んでいきました。何だ?と思った後には、トラックゆえに大量の水が僕にかかり、僕は泣きたい気持ちでした。時計を見ると、夕方も近く、苫小牧までは行けないかもしれないと、元気がどんどんなくなりました。
早来を過ぎたところで、雨があがりました。道路に青く空が映りました。うれしかった。虹がでました。くっきりした虹が、僕を慰めてくれるようでした。しばし行くと、道路っぷちに止まっていたカローラレビンが、動き、僕を追い越して、声を掛けてきました。
「どこまで行くの? 乗っていくかい?」
僕は、迷いました。
「ずぶぬれです。ぬれますよ」
「いいよ、構わないよ」
僕は、乗せてもらいました。何を話したか覚えていませんが、お兄さんはとても優しかった。僕は、苫小牧港まで行ってもらいました。お兄さん、あのときは、本当にありがとうございました。港に着いて、僕は港の待合室の食堂に入りました。ほとんど何も食べずに歩いてきたんです。塩ラーメンを頼みました。テーブルに着いて、見ると、僕の下には水たまりができていました。何か言われやしないか、びくびくしながら、ラーメンを待ちました。湯気を立てたラーメン。体に入ると、体が驚きました。あったかい。あったかい。あったかい。僕は、生まれて初めて、ものを食べることに泣きました。鼻水がいっぱいいっぱい出てきました。なぜ涙が止まらなかったんだろう。
港から、旅立つ予定はありません。今回の僕は、海までこれればいいんです。僕は、苫小牧駅に向かいました。途中、またしても雷雨。いい加減にしてほしいと思いながら、気持ちは凱旋でした。
室蘭本線で、苫小牧から追分まで。右側の車窓には、国道を走る車のライトが見えます。僕が一日かけてきた道を、車は、なんてことなく走っています。列車も、いつものように走り、僕はずっと暗い国道を見ていました。体にぴったりくっついたGパンは、冷たかったけど、少し強くなれた気がしました。
去年の今日