今日も、みやぎ教育のつどいに参加します。今日は、図工美術分科会です。
午前中は、版画の実技研修。久しぶりにゴム版を彫りました。ひょっとすると、高校生以来だったかもしれません。かつては版画青年だった僕。夕張の家の玄関には、まだ僕の中学生時代の作品が掛けられていますが、まあなかなかでしたのー。利尻岳の作品もよいですが、釧路の市場の作品が好き。しかし、10代にしては渋くてネガティブ系な作品でしたなぁ。
レポート持っての参加です。こんなのです。
みんなで「小さい花いっぱい」咲かせました。
〜墨と絵の具による描画の共同製作:小学3学年図工科での実践〜
教職員組合F支部 G小学校分会 ○○○
1 はじめに
幼少の頃の私は、怖がりでした。心配性でした。話すことが苦手で、無口でした。しゃべりたい思いはあるものの、どう話していいか分かりませんでした。胸の中で、思いがぐるぐるしながらも、口から発することは難しく、それゆえに一層、お腹の中あたりでぐるぐると思いが暴れているのでした。怒りも訴えも、ときには好きな女の子へに寄せる言葉も。
そんな私は、鉛筆であれこれと絵を描きました。いたずら書きです。何もしないのではなく、何とか自分の中にあるものを、外に出そうとしました。文字も書きました。思春期からは日記に書き連ねました。絵や文字が、自分自身を落ち着かせました。自分で自分を再認識したり、励まされたりすることもありました。それは、今に至っても変わらないかもしれません、話はできるようになりましたが。
小学校教員になり、いろんな表現方法(思いの伝え方)があることを子どもたちには身に付けてほしいと思いました。私が経験してきた閉塞感や孤独感。それらを越える術を持つことを支援したいと思いました。詩を作ること、手紙を書くこと、学芸会での演劇、野外活動でのスタンツ、歌、楽器を奏でること、そして図工での創作活動。
ここでは、2010年度のW町立W第○小学校3年1組での図工科の実践を報告します。なお2011年度からW第○小学校はW第□小学校と統合して、S小学校となりました。校舎は、W第○小学校と同じです。今年度の私は学級担任ではなく、5学年(40名)6学年(27名)の算数科の少人数指導と理科・図工科を担当しています。
2 3年生の課題
3年生は、38人でした。1年2年のときは2学級でしたが、中学年になったので少人数編成ではなくなり1学級となりました。
どんな学年どんな学級を担任しても、課題がないことはありません。悪口を言う子、乱暴な子、いじわるする子、嘘をつく習慣が身に付いている子、話を聴かない子、話を聴いていないのに聴いているふりがうまい子、思っていることを話せない子、言葉よりも涙がいっぱいあふれる子。それゆえに、互いに折りあえない空間、トラブルを生みたくないのに生んじゃっている空間。
課題がないことはないので、幾多の困ったことも基本的には標準的と言えるでしょう。1年間過ごして、いろんなことを経験して、「成長したねぇ。前は〜だったのにねぇ〜」と褒めることができるといいなと、毎年春に感じるものです。
しかしながら、担任としては38人学級は、なかなか手ごわいのでした。教室自体が広くなく、空間的なゆとりも、精神的なゆとりも、予めない状態でした。イライラした空気が生まれやすいように感じました。何とかしなくてはなりません。
3 春の実践
(1)本当のことを見ること見つけること。
3年生の4月は、理科の学習を始める春です。理科とは何かをまず学びます。私たちを取り巻く自然の、様々な現象について、それが何なのか、なぜそうなるのか、研究するんだよと話します。世の中には、思い込みや偽物がたくさんあります。「本当はどうなのか、真実を見極める目を持つのです」と、仰々しく重く話します。
さっそく理科、植物観察です。まず、ノートに花を描きます。何も見ないで描くのです。「花を描いてごらん。」みんな簡単に描きます。たとえばチューリップの絵。3つのギザギザ花の絵。何てことはないのです。私は黒板にそんなチューリップの絵を描きます。「これは何の花ですか」「チューリップです」「本当? 本当にチューリップって、こんな花ですか」と問いかけます。そして、校庭に出ます。
実際には、花びらが重なっていることを発見します。桜は、花びらが5枚だと思っていたのに、いろいろ種類があること。葉っぱの付き方には、いろいろであること。外で実際に花を観察しながら、新しいページに描きます。さっきとは全然違います。よくよく見なければ、思い込んだまま。植物の学習でありながら、図工でもあり、そして見方・考え方の学習でもあります。逆に、理科とは図工とは、見方・考え方の学習なのだと言うこともできるかもしれません。(2)大きな紙に描くこと。
黒板の上などに自分の目標などを書いたものを掲示します。いわゆる教室経営です。私は、大きな紙にみんなで書き、大きく壁を覆うことをこれまで続けてきました。壁紙そのものを作る要領です。障子紙を図工室のテーブルに広げ、それぞれにめあてや自分の名前をクレヨンで書きます。その後、絵の具で虹を掛けて、青空を作ります。
予想通りです。大きな紙を前にして、躊躇する子、どんどん書き進める子、「自分の場所」に固執する子、薄く書く子、濃く太く書く子。大きな1枚の作品なので、小さくまとまりません。小さく書いている子もだんだんと、パワフルに腕を振るうようになりました。場所も譲り合ったりして、トラブルありつつも、みんなの中にいる自分を認識できる時間になったように、担任は感じています。
でき上がった作品を黒板の上に貼りました。「おお!」という表情が印象的です。
4 「小さい花いっぱい」製作の実際
(1)S会訪問
3年生の総合的な学習は「ふるさと学習」です。7月に高齢者の皆さんの集まりを訪れることになっていました。プレゼントを作ったり、出し物の準備をしたり。担任が指図するのではなく、創意工夫しながらの活動です。出し物については条件を予め示します。始めと終わりがはっきり分かること、自分たちだけが楽しんで見ている人が楽しくないものはダメ、時間は5分を越えないこと、全員が活躍すること。
なかなかスムーズには行きません。というのも、これまでの経験でしか考えることができないものですから。そこで、メニューを示します。「歌、踊り、なぞなぞ、お笑い、劇などありますよ」と。劇をしたいけれど何をしようかもめるグループもあります。それはそうですね。そこで「おじいさんおばあさん誰もが知っていそうな昔話やテレビ番組を、君たち流にやれませんか」と投げ掛けます。結果、時代劇が好評でした。「どこで終わりで、どこで拍手したらいいか、分かるものにするんだよ」と注文をつけました。台本も自分たちです。なかなか大変です。落ちを付けなきゃいけませんから。
S会交流会での出し物の部のプログラムは、次の通りです。
@『だんご屋の娘』
悪代官にさらわれそうになった娘の運命やいかに。
A『みんなが元気になるダンス』
みんなで「タルタルソース」のダンスを楽しみましょう。
B『ふるさとのいいとこさがし』
道徳の本に載っていたお話を紙芝居にしました。
C『水戸黄門』
またまた悪代官の登場です。「この紋所が目に入らんか〜!」
D『ショートコント・バイク隊』
お笑い3人組が、バイクに乗ります。アンコールあれば、おまけ付き。
E『クローバーチームのなぞなぞ』
なぞなぞです。難しかったら、ヒントをリクエストしましょう。
F『虹チーム』
くじを引きます。くじの番号で、プレゼントが当たります。
みんないい感じでした。大したもんだなぁと感動したのは、担任だけではなかったと思います。
(2)学芸会の劇『水戸黄門ズ』
秋になりました。学芸会が近づきます。3年生のみんなが、大勢の人の前で一人一人堂々と演じる姿を見たいなぁと思います。やっぱり劇です。全員が主人公と言える劇をいつも目指したいので、脚本はオリジナルです。しかしながら、38人もいます。悩みます。
かつては、すっかりオリジナル脚本(『さらば☆勉強マシン』『ジイダ・ジイダ・マカナ』など)で挑んだものですが、高齢者の方には伝わりにくいことがしばしばありました。そこで近年は、誰もが知っているお話をアレンジして脚本にしてきました。たとえば『桃太郎』『うらしまたろうズ』『杜子春』などです。ちなみに「ズ」は英語の複数形の「ズ」です。
いろいろ考えた末、3年生38人の劇は『水戸黄門ズ』にしました。S会で『水戸黄門』をやった子たちが多かったこと、『水戸黄門』なら知っている人が多いから、アレンジしやすいと思ったのです。また、劇の中でダンスをすることにしました。1学期末にダンスが流行ったんです。『絶対キャッチ ア ドリーム」』です。CDを準備したりしました。これを劇に活用しない手はありません。歌好きな3年生。劇中歌はソロを準備しましょう。きっと一層歌好きになるはずです。そんなあれこれをパッチワークして脚本を作ります。
『水戸黄門ズ』のあらすじは、こんな感じです。貧しい村。
娘は、悪代官に売られていくことを決意する。嘆く家族。
逃げてきた娘。約束と違うと悪代官たちに詰め寄る。
悪代官たちにやっつけられそうなところで、黄門たち登場。ははーと一件落着。
ここまでは、水戸黄門。ここで拍手。終わったかと思い気や
それをこっそり見ていた人たち登場。
黄門に関心し、黄門たちの真似をすることにする。
けれども、なかなかははーとは行かない。
村は、水不足。村人と悪代官たちの争い。
そこに偽黄門が現れる。悪代官たちの味方して一件落着。
というところで、本黄門。騒ぎとなる。争い。
そこに、ある子どもが登場。ははーなんて変だよと言う。
水はみんなのもの。争うなと言う。
印籠を奪い、バリバリと食べちゃう(せんべい)。
みんなで踊る。
分けあいながら暮らしていくことを呼びかける。
最後はみんなで、歌う。(3)舞台の背景画「小さい花いっぱい」
劇は、舞台の上も下も使います。幕が開いてすぐ、または山場に転換したところでの、背景画はとても重要と感じています。縦3m横5mくらいのバック絵。障子紙を貼り合わせて作り、墨で描き、水彩で着色します。私が一人で描いてしまうことが多いのですが、みんなで作りたいと思いました。それは、普段の生活の中、ぎすぎすしそうな場面がふわりと丸くなっていることに気付くことが多くなってきたからです。みんな一緒に一つの作品(劇)を作ることが、いい感じに花開いているように感じたからです。ならば、劇のクライマックスは、全員で作った作品で輝かせたいと、そう考えたのです。(4)製作の実際
@ 説明
「劇の最後、みんなが仲良くなる場面で、中幕を開けるとぱーんと花がいっぱいって!感じにするよ」と話しました。全員で描くところに意味があること。心込めて描くこと。みんなで一つの作品を作り上げること。伝えました。いい顔で聞いているみんなでした。A 墨で描く
3年教室の廊下を挟んだ向かえは、図工室です。テーブルを端に移動し、新聞紙を敷き詰めます。そこに、障子紙ロールを3本敷きます。1本目は、縦割り1・2班で挟んで座ります。2本目は、3・4班。3本目は、5・6班。
靴と靴下は予め教室の席の下に置いておきます。はだしで描きます。作品に靴の足跡を付けないため。汚れても簡単に洗えるようにするため。昨日の給食の牛乳パック200mlに墨汁を1cmほど入れます。筆は、水彩絵の具用で一番太いもの一本。
何本か花を用意しました。図鑑もたくさん持ち込みました。キンモクセイの花びらを、ぱーっと散らしました。「わぁー! いい匂い!」
曼珠沙華を手に取り、よくよく観察しながら描く子。何も見ないでぐいぐいでかい花にしていく子。キンモクセイを一つずつ描く子。みんな様々です。描いた花の近くに、自分の名前も書きます。最初の場所で描くところがなくなったら、移動します。
2時間(3時間目と5時間目)で描きました。みんな満足げです。家で筆をよく洗うことを伝えます。ナイロン製の筆だと躊躇なく石鹸でごしごしできるので安心です。ちなみに私は、ぺんてるの筆を愛用しています。B 着色
墨はおよそ一晩で乾きます。線描した翌日、着色です。用意するのは、絵の具のチューブと筆、そして筆洗いバケツと筆拭き布です。パレットは使いません。絵の具のチューブを紙に直接つけて、水で伸ばすのです。混色によるにごり防止と、広い面積を効率よく塗っていくためです。着色の順番も、みんなで一律に進めます。「はい、赤のところ全部やっちゃおう!」「そろそろ赤のところ終わるよ。次は、黄色です」という感じ。みんな、あちこち移動しながら着色します。結果、全体的にバランスよく、赤だらけ黄色だらけです。次に、緑系を解禁します。そして青系。2時間(3時間目と6時間目)で描きました。背景までは間に合わなくて、放課後に残れる子と担任で水色や緑、ペールオレンジを塗りました。
5 3年生のその後
劇には、みんな満足した姿でした。一人一人が個性を発揮させたなあと思います。背景の絵も好評でした。「絶対に同じものはないよ、世界に一つだけの作品だよ」と、作品を作るたびに話すのですが、今回は全員で作った一つの作品。まさに宝です。
学芸会で一体感を感じても、その後もいろいろとトラブルはあったりします。何事もパッと簡単には変わりません。けれども、少しずつは変わっています。毎日の経験が積み重なっています。よいことも悪いことも、みんな糧になっています。3学期、終業式も近づいたところで、震災を被りました。大人になってから、震災を振り返るとき、「3年生のときだった」と、「学芸会で水戸黄門ズやったよね」と思い出すこともあるでしょうか。小学校教員は、子どもたちの人生のほんの一シーンしか一緒には過ごせませんが、それゆえに毎日の一つひとつに心込めたいと思っているところです。
最後になりましたが、「小さい花いっぱい」という題名について。実は、「小さい花いっぱい」は学級通信の名前なんです。基本的には毎日出したいのですが、忙しいときはずっと休みがちでした。手書き写真入りの学級通信。題字「小さい花いっぱい」は、みんなが順番に書くことになっていました。筆ペンで書くんです。みんな楽しみにしているので、休まずに作ろうという気にもなります。さて、「小さい花いっぱい」の由来。大きくなくてもいいよ、小さい花をたくさん咲かせよう。小さい幸せ、たくさん見つけよう。そんな、担任の願いです。これは、3学年の一年に限ったことではありませんね。ずっとずっと「小さい花いっぱい」。3年生に限ったことでなく、大人にもきっと言えることでしょう。写真は、今日の図工・美術分科会の様子です。